第1条 基本理念
精神的不調をきたした方々に、安心して当院を受診していただくためにも、ふだんから、感染経路を徹底的に遮断し、感染症の発生を予防(院内感染予防)し、ひとたび院内感染症が発生した場合は、速やかに制圧、終息を図ること(院内感染拡大防止)は、医療機関としての責務である。
その責務を組織化し、当院を挙げて感染制御に取り組み、安全かつ質の高い医療を提供し、ひいては、患者様ひとりひとりの安心と満足に資するために、医療法第6条の12及び医療法施行規則第1条の11の規定に基づき、本指針を定める。
<補足>なお、本指針で使用する主な用語の定義は、以下のとおりとする。
(1)職員とは、当院に勤務する医師、事務職員等、全職員をさす。
(2)院内感染とは、患者様及び医療従事者が当院内で罹患した感染症をさし、医療提供者の過失の有無は問わず、不可抗力と思われる事象も含む。
第2条 院内感染対策のための体制
第1条の基本理念を具現化し、院内感染予防、院内感染拡大防止を組織的に進めるため、管理者は以下を推進する。
(1) 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に定められた患者を診察した際の横浜市保健所長(市保健所代表:045-671-4182,健康安全課:045-671-2463)への届け出
(2)院内感染対策のための「研修」の実施
(3)院内感染対策指針の策定・見直し
(4)院内感染対策の資料収集と職員への周知
(5)院内感染発生時の対応時の対応と再発防止策の立案と推進
(6)患者様等への情報公開
(7)患者様等からの相談への対応
第3条 感染防止対策のための「研修」体制
1.院内感染予防、院内感染拡大防止のために必要な知識・技術・態度を、病院職員に周知するため、研修会を開催する。研修会参加により、当院職員が院内感染予防、院内感染拡大防止に向けて自主的に意欲を高め、活動できるようでなくてはならない。
2.管理者は、上記1項の研修を、年2回開催する。また、院内感染発生後など、必要があると認めるときは、臨時に研修を行う。
3.管理者は、新たに採用された当院職員に、院内感染予防、院内感染拡大防止のために必要な知識・技術・態度を教育する。
4.研修は、医療安全支援センターなどが主催する外部研修、外部講習参加者からの伝達講習、院内での事例分析、外部講師を招聘しての講習や、有益な文献の抄読などの方法によって行う。
5.当院職員は、研修が実施される際には極力、受講するよう努めなくてはならない。
6.管理者は、研修を実施したときは、概要(開催日時、出席者、研修項目)を記録し、2年間保管する。
第4条 院内感染発生時の対応及び再発防止
1.標準予防策を遵守する。感染症が疑われる患者に対しては、感染症の種類に応じた対策を講じ、院内感染の防止を図る。また、管理者、当院職員は、院内感染の早期発見に努めるとともに、自身の日常の体調管理を十分に行う。
2.前項の目的を達成するため、院内感染の状況、患者や職員の状態等を、管理者へ迅速かつ正確に報告する。報告した職員は、その事実及び報告の内容を、診療録、看護記録等、自らが作成すべき記録、帳簿等に記録する。
3.院内感染が発生した場合、罹患した職員は至急適切な医療機関を受診し、治療する。また、管理者は、疾患に応じて、関係専門機関と適宜協力し、感染拡大防止策を速やかに講じる。
4.CDC、国立感染症研究所や横浜市衛生研究所における感染症の最新発生状況の把握に努め、感染発生の予防及び蔓延防止を図る。
5.院内感染防止のため、針刺し事故対応マニュアルや、結核対策、法定感染症対策等の各マニュアルを、心療内科、精神科診療所である当院の実情に合わせて、適宜、別途整備する。また、各マニュアルは必要に応じて改訂する。職員は、これらマニュアルに基づき業務に従事する。
第5条 患者様等への情報公開
安全かつ質の高い医療を提供し、患者様ひとりひとりの安心と満足に資するため、当院は、患者様、ご家族等の求めに応じて、医療情報を共有し、当指針を公開する。
第6条 患者様等からの相談への対応
患者様、ご家族等からの相談に対しては、管理者が誠実に対応する。その内容、経緯を職員と共有する。院内感染発生時は、当該患者とその保護者、家族等に対して、適切に情報を提供する。その際、疾病の説明とともに、感染制御の基本についても説明して、理解を得た上で、協力を求める。また、必要に応じて感染率などの情報を公開する。
第7条 院内感染対策指針の周知と改正
管理者は、本指針の内容を全職員に周知徹底する。また、必要に応じて改正し、全職員に周知する。
第8条 院内感染対策の具体的方法
(1)標準予防策による感染経路の遮断
①手指衛生
(1)手指衛生の重要性を認識し、遵守率が高くなるよう全職員に教育、介入する。
(2)手洗い、手指消毒のための備品、設備を整備する。
(3)患者ケアの前後に必ず手指衛生を遵守する。使い捨て手袋を着用の場合も同様である。
(3)手指消毒用アルコール製剤による擦式消毒、石けんと流水による手洗いを基本とする。
(4)目に見える汚れがある場合には、石けんと流水による手洗いを行う。
(5)アルコールに抵抗性のある微生物に考慮して、適宜石けんと流水による手洗いを追加する。
(6)手拭タオルは使い捨てのペーパータオルを使用する。
②個人用防護具personal protective equipments(PPE)の着用
(1)血液、体液、分泌物、排泄物、粘膜に触れる場合は手袋を着用する。
(2)汚染した手袋をしたまま、ドアノブなどの環境表面に触れない。
(3)使い捨て手袋は再使用せず、処置ごとの交換が原則である。やむを得ず繰り返し使用する場合には、その都度、アルコール清拭を行う。
(4)手袋を外したら、直ちに手洗い、手指消毒を行う。
(5)患者様と濃厚な接触をする場合、喀痰、血液、体液が周囲に飛び散る状況下、あるいは、エアロゾルが発生する状況では、サージカルマスク、ゴーグル、ガウンを着用する。患者様がサージカルマ
スクを着用している場合は、サージカルマスク、必要に応じてゴーグルを着用する。
(2)感染経路別予防策による感染経路の遮断
疾患及び病態等に応じて、以下の通り、標準予防策に加えて感染経路別予防策を実施する。
①接触感染
人対人の直接的接触と、周囲の環境、機器等を介しての間接的接触とがある。
A型肝炎ウイルス、ノロウイルス、流行性角結膜炎、単純ヘルペスウイルス、多剤耐性菌、O157大腸菌、膿痂疹、疥癬が相当する。
手指衛生、手袋着用が必須。自分の白衣が、患者、ベッド柵、周囲物品、血液、体液に触れると予想される時はガウンを着用。
②飛沫感染
微生物が粒径5μmより大きい粒子(飛沫)に付着し、比較的速やかに落下する。
インフルエンザ桿菌、髄膜炎菌、マイコプラズマ、百日咳菌、溶連菌、COVID-19、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、 流行性耳下腺炎ウイルス、 風疹ウイルスが相当する。
サージカルマスク着用が必須。呼吸器症状のある患者はサージカルマスクを着用してもらう。患者がサージカルマスクを着用していない場合は、職員は眼の防御を要し、ゴーグルを着用。
③空気感染
微生物が粒径5μm以下の粒子(飛沫核)に付着し、長時間遠くまで浮遊する。
麻疹、水痘・帯状疱疹ウイルス、 結核が相当する。ノロウイルスやCOVID-19は、エアロゾル化する環境下では、空気感染しうる。
診察室等は陰圧を維持し、一時間に6回以上換気する。患者にはサージカルマスク着用を促し、職員は、N95マスクを着用する。
(3)医用器具・機材
心療内科、精神科を標榜する当院では、通常、滅菌操作の必要な医療手技は想定していないが、一般には以下の通りである。
(1)使用済注射針は、そのまま、専用容器に廃棄し、リキャップしない。
(2)滅菌物、汚染が起こらないよう注意して保管する。汚染が認められたときは、廃棄する。使用の際
は、安全保存期間を厳守する。
(3)滅菌済器具・器材を使用する際は、無菌野で滅菌手袋着用の上で取り扱う。
(4)非無菌野で、非滅菌物と滅菌物とを混ぜて使うことは意味がない。
(5)滅菌再生器材の洗浄前消毒薬処理は、洗浄の障害となるので行わない。
(4)リネン類
心療内科、精神科を標榜する当院では、通常、リネンの共用は想定していないが、一般には以下の通りである。
(1)共用するリネン類(シーツ、ベッドパッドなど)は熱水消毒(80℃・10分)を経て再使用する。
(2)熱水消毒ができない場合には、次亜塩素酸ナトリウムなどで洗濯前処理する。(500~1000ppm(5%次亜塩素酸ナトリウムを50~100倍希釈)・30分浸漬)
(3)血液の付着したリネンは、血液を洗い落としてから次亜塩素酸ナトリウム消毒すべきであるが、汚染の拡散に十分注意する。医療施設用熱水洗濯機が推奨される。
(5)消化管感染症対策
(1)糞便-経口の経路を遮断する観点から、手洗いや手指消毒が重要である。
(2)糞便や吐物で汚染された箇所の消毒が必要である。
(3)床面等に嘔吐した場合は、手袋、マスクを着用して、重ねたティッシュで拭き取り、プラスチックバッグに密閉する。汚染箇所の消毒は、次亜塩素酸ナトリウムを用い、平滑な表面であれば、5%溶液の50 倍希釈液を、カーペット等は10 倍希釈液(5,000ppm)を用い、10分間接触させる。表面への影響については、消毒後に、設備担当者と相談する。蒸気クリーナー又は蒸気アイロンによる熱消毒(70℃・5分,100℃・1分)も良い。
(4)汚染箇所を、一般用掃除機(超高性能フィルターで濾過排気する病院清掃用掃除機以外のもの)で清掃することは、汚染を空気中に飛散させる原因となるので、行わない。
(6)患者の技術的隔離
(1)空気感染、飛沫感染する感染症では、患者にサージカルマスクを着用してもらう。
(2)空気感染、飛沫感染する感染症で、隔離必要時、移送関係者にN95マスク着用など感染防止を実
施し、適切な施設に紹介移送する。
(3)接触感染する感染症で、入院を必要とする場合、感染部位を安全な方法で被覆して適切な施設に紹介移送する。
(7)感染症発生時の対応
(1)個々の感染症例は、専門医に相談しつつ治療する。
(2)感染症の治療に際しては、周辺への感染の拡大を防止しつつ、適切に実施する。
(3)集団発生あるいは異常発生を考えたら、保健所、福祉保健センターと連絡を密にして対応する。
(8)抗菌薬投与時の注意
(1)対象微生物と対象臓器の組織内濃度を考慮した適正量の投与を行う。分離微生物の薬剤感受性検査結果に基づく抗菌薬選択を行うことが望ましい。
(2)細菌培養等の検査結果を得る前でも、必要な場合は、経験的治療を行う。
(3)特別な例を除いて、1つの抗菌薬を長期間連続使用することは厳に慎む。(数日程度が限界)。
(4)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)など特定の多剤耐性菌を保菌しているが、無症状の症例に対しては、抗菌薬の投与による除菌は行わない。
(5)地域における薬剤感受性サーベイランス(地域支援ネットワーク、厚労省サーベイランス、医師会報告など)の結果を参照する。
(9)予防接種
(1)予防接種が可能な感染性疾患に対しては、接種率を高めることが最大の制御策である。
(2)ワクチン接種によって感染が予防できる疾患(B型肝炎、麻疹、風疹、水痘、流行性耳下腺炎、インフルエンザ等)については、適切にワクチン接種を行う。
(3)患者及び医療従事者共に必要なワクチンの接種率を高める工夫をする。
(10)医薬品の微生物汚染防止
(1)血液製剤(含ヒトエリスロポエチン)や脂肪乳剤(含プロポフォール)を分割使用しない。
(2)生理食塩液や5%ブドウ糖液などの注射剤の分割使用は、原則として行わない。もし分割使用する
場合でも、冷所保存で24 時間までの使用にとどめる。
(3)生理食塩水などの分割使用は、細菌汚染のみならず、B型肝炎やC型肝炎などの原因にもなる。
(4)混注後の輸液の作り置きは、室温保存では6時間以内とする。
(11)医療施設の環境整備
(1)床、テーブルなどは汚染除去を目的とした除塵清掃が重要であり、湿式清掃を行う。また、日常的に消毒薬を使用する必要はない。
(2)手が頻繁に触れる部位は、1日1回以上の水拭き清拭又は消毒薬(両性界面活性剤、第四級アンモニウム塩、アルコールなど)による清拭消毒を実施する。
(3)環境消毒のための消毒薬の噴霧、散布、燻蒸及び紫外線照射、オゾン殺菌は、作業者や患者に対して有害であり、原則的に実施しない。
(4)限られたスペースを有効に活用し、清潔と不潔との区別に心がける。
(12)相談体制の確立
日頃から、地域の中核的医療施設等とコンタクトを取り、気軽に感染症の専門家に相談できる体制を整えておく。
馬車道すずきメンタルクリニック管理者・鈴木 雄壱
令和6年11月1日 制定
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